大きな家で小さく暮らす

暮らしのサイズダウンを綴っていきます。

贅沢貧乏

『牟礼魔利は、自分の部屋の中のことに関しては、細心の注意を払っていて、そうしてその結果に満足し、独り満足の微笑いを浮かべているのである。魔利の部屋にある物象という物象はすべて、魔利を満足させるべき条件を完全に、具えていた。空瓶の一つ、鉛筆一本、石鹸一つの色にも、絶対こうでなくてはならぬという鉄則によって選ばれているので、花を呉れる人もないがたとえば貰ったり、紅茶茶碗、匙、洋盃の類をもし人から貰ったとすると、それは捨てるか売るより他に、なかった』

この本に出会ったのは二十歳を過ぎた頃。

ただただ大人の素敵な女性になることを目指し、美意識を高めることに必死になっていました。

『魔利は上に「赤」の字がつく程度に貧乏なのだが、それでいて魔利は貧乏臭さというものを、心から嫌っている。反対に贅沢と豪華との持つ色彩が、何より好きである。そこで魔利は貧寒なアパルトマンの六畳の部屋の中から、貧乏臭さというものを根こそぎ追放し、それに代るに豪華な雰囲気をとり入れることに、熱中しているのである』

贅沢や豪華というと、普通はキラキラした宝石やハイブランドの服やバッグを身につけ、高級車を乗り回したりすることを想像しますが、魔利に言わせれば、それは「貧乏贅沢」。

『だいたい贅沢というのは高価なものを持っていることではなくて、贅沢な精神を持っていることである。容れものの着物や車より、中身の人間が贅沢でなくては駄目である』

この本を手にとった日から長い月日がたった今、私はあの頃目指していた大人の素敵な女性になれたのか、、、

下を向くしかありません。

めまぐるしく変化する環境、日々の増え続ける雑事、そんなことに振り回され、大人の素敵な女性とは程遠いただのおばさんに成り果ててしまいました(泣)

今何年かぶりにこの本を読み返してみて、あのときの一生懸命だった自分を思い出し、もう一度自分に喝を入れ、今度は素敵なおばあさんになることを目指してこれからの日々を丁寧に生きていこうと思います。

『要するに、不恰好な蛍光灯の突っ立った庭に貧乏な心持で腰かけている少女より、安い新鮮な花をたくさん活けて楽しんでいる少女の方が、ほんとうの贅沢だということである』

*引用文献

『贅沢貧乏』森茉莉著 新潮社 1963年

↓もし、よろしければポチッと押していただけたら嬉しいです↓

ミニマルライフ(持たない暮らし)ブログランキング